生活保護の生業扶助
- 生業(事業)や就労にかかる費用を支給
- 技能(資格など)習得の費用を支給
- 就労の支度にかかる費用を支給
- 高等学校にかかる費用を支給
お断り
本記事の内容は、私が担当ケースワーカーさんに取材させていただいた内容を元にしています。
生活保護は、各自治体の裁量が非常に大きく、自治体によっては対応が異なる場合もありますので、参考としてご覧になってください
今回は生活保護の生業扶助について説明します。
生業扶助は、生業(事業)や就労、高等学校に関わる費用が支給されます。
生業(事業)や就労は収入に大きく関わってくる、つまり、うまく行けば生活保護の返上にもつながります。
ですから、生業扶助はその他の扶助と比較しても、例外や特別基準(後述)が多く設定されています。
今回はそんな生活保護の生業扶助について
生活保護の生業扶助
- どんな扶助なのか
- 支給される費用
- 生業扶助を受ける流れ
を紹介します。
生業扶助は生活保護の扶助の種類
扶助の種類
- 生活扶助
- 住宅扶助
- 教育扶助
- 医療扶助
- 介護扶助
- 出産扶助
- 生業扶助
- 葬祭扶助
生活保護の扶助(費目)を分類すると8つに分類でき、生業扶助はその1つです。
関連記事
●【生活保護】生活扶助(生活費)の種類
●【生活保護】住宅扶助(家賃)とは?共益費や水道費や賃貸保証料も含まれているの?
●【生活保護】教育扶助とは?支給される費用や金額と対象を説明!
●【生活保護】医療扶助とは?医療サービスを自己負担0(無料)で受けられる(条件アリ)
●【生活保護】介護扶助とは?介護サービスを自己負担0(無料)で受けられるサービス(条件アリ)
●【生活保護】出産扶助は出産(分べん)にかかる費用を支給してもらえる
●【生活保護】葬祭扶助とは?葬祭にかかる費用が「葬祭を行う者」に支給される(条件アリ)
生業扶助とは?
生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。但し、これによつて、その者の収入を増加させ、又はその自立を助長することのできる見込のある場合に限る。
一 生業に必要な資金、器具又は資料
二 生業に必要な技能の修得
三 就労のために必要なもの
引用:生活保護法第17条 生業扶助(電子政府の総合窓口 イーガブ)より
つまり、生業(事業)と就労に必要な費用を支給してもらえます。
また、冒頭でも触れましたが、高等学校にかかる費用も生業扶助で支給されます。
小中学校は義務教育なので、教育扶助という専門の扶助がありますが、高等学校は義務教育ではありません。
しかし、高等学校は生業、就労に必要な技能の習得として認められている為、生業扶助に分類されています。
参考平成 30 年度生活保護実施要領等(厚生労働省 PDF)
生業扶助は生活保護受給者だけでなく「おそれのあるもの」も対象になる
生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者に対して、
引用:生活保護法第17条 生業扶助(電子政府の総合窓口 イーガブ)より
つまり、生活保護の受給者でなくとも、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない「おそれのある者」は生業扶助の支給対象になると、法律で定められています。
このように、生活保護を受給せずに、生業扶助だけ受給する事を単給と言います。
しかし、制度的には、生活保護の受給条件を(収入面などで)満たしていない世帯でも、単給という形で生業扶助を受ける事ができますが、現実に単給の形で生業扶助を受給している世帯があるかは不明です。
生業扶助で就労助成を受けた場合臨時訪問(家庭訪問)が実施される
生業扶助により就労助成が行われた場合、臨時訪問(家庭訪問)が実施されます。
就労助成を受けるにあたっての疑問点や不安点を、このタイミングで聞いておくと良いでしょう。
なお、家庭訪問は基本的に事前連絡があり、本人とケースワーカーさんの都合が良い日時に設定されます。
関連記事
●【生活保護】家庭訪問はいつ?抜き打ちで実施される事はない(例外アリ)
●【生活保護】家庭訪問が休日(土日祝)に実施される事はない(例外アリ)
●【生活保護】家庭訪問は拒否や無視できる?法的にできない!段階を経て生活保護停止・廃止の可能性も
●「生活保護」の「家庭訪問(申請時)」を受けました!!
生業扶助で支給される費用と支給額
生業扶助では費用に3つの種類があります。
No | 費用 | 支給額 |
---|---|---|
1 | 生業費 | 46,000円以内 |
2 | 技能習得費(高等学校等就学費を除く) | 78,000円以内 |
2 | 技能習得費(高等学校等就学費) |
|
3 | 就職支度費 | 31,000円以内 |
平成30年度(2018年度)データ
参考平成 30 年度生活保護実施要領等(厚生労働省 PDF)
1:生業費
生業費
■特別基準:77,000円以内
※同一世帯で2人以上受給可能
生計の維持を目的として、小規模の事業を営む為に必要な資金(器具や資料の準備など)として支給されるのが生業費です。
企業に雇われるのではなく、自分で事業する事に充てる費用となり、その必要とする実態を調査確認された上で支給されますので、申請しても必ず支給されるとは限りません。
生業費の額がやむを得ない事情で46,000円以上の金額が必要だと認められた場合、特別基準として77,000円以内の額が支給されます。
また、生活保護は世帯単位で受給しますので、同一世帯で2人以上が生業費の受給をする事も可能です。
具体的には、夫が大工で妻が農家と、別々に事業を営む場合などは夫も妻も生業費の受給申請が出来ます。
ただし、世帯の収入の増加及び自立助長に効果的に役立つと認められるものという条件がありますので、判断は自治体とケースワーカー次第です。
また、後述する就職支度費と生業費を同一人物が受給する事はできません。
2:技能習得費(高等学校等就学費を除く)
技能習得費(高等学校等就学費を除く)
■特別基準131,000円以内/年
※原則1年最長2年
※例外アリ
技能習得費(高等学校等就学費を除く)は、生計の維持に役立つ生業に就くために必要な技能を修得する経費として支給されます。
資格取得などが該当しますが、資格取得期間が1年以内の場合において、1年を限度として支給されます。
ただし、世帯の自立更生上特に効果があると認められる技能(資格など)修得については、2年以内を限度とした期間が認められ、1年につき78,000円以内の額が支給されます。
つまり、原則1年ですが、認められた場合は2年を上限に78,000円以内/年が支給されます。
技能習得費(高等学校等就学費を除く)が、やむを得ない事情で78,000円以上/年以上の金額が必要だと認められた場合、特別基準として131,000円以内の額が支給されます。
ですから、例え世帯の自立更生上特に効果があると認められたとしても、技能(資格)習得に3年かかる場合、3年目の技能(資格)習得費用を自腹で負担する事になります。
技能習得費(高等学校等就学費を除く)の特別基準を超えた金額が支給される例外
ココがポイント
- 生計の維持に役立つ生業に就くために専修学校又は各種学校において技能を修得する場合であって、当該世帯の自立助長に資することが確実に見込まれる場合
- 自動車運転免許を取得する場合(免許の取得が雇用の条件となっている等確実に就労するために必要な場合に限る。)
- 雇用保険法第60条の2に規定する教育訓練給付金の対象となる厚生労働大臣の指定する教育訓練講座(原則として当該講座修了によって当該世帯の自立助長に効果的と認められる公的資格が得られるものに限る。)を受講
する場合であって、当該世帯の自立助長に効果的と認められる場合
上記に該当する場合は、 技能習得費(高等学校等就学費を除く)の特別基準である131,000円を超えた380,000円以内の金額が支給されます。
技能習得費(高等学校等就学費を除く)が3年目以降も支給される例外
身体障害者手帳を所持する視覚障害者が、はり師、きゅう師になるために必要な技能を修得する場合は、技能習得費(高等学校等就学費を除く)を2年以上支給してもらえる可能性があります。
必ずではありませんが、技能修得が世帯の自立助長に特に効果があると認められれば、2年を超えても78,000円以内/年の支給を受ける事ができます。
技能習得費(高等学校等就学費を除く)として認められる費用
ココがポイント
- 授業料(月謝)
- 教科書
- 教材費
- 当該技能修得を受ける者全員が義務的に課せられる費用等の経費
- 資格検定等に要する費用(ただし、同一の資格検定等につき一度限りとする。)
- コンピュータの基本的機能の操作等就職に有利な一般的技能
- コミュニケーション能力等就労に必要な基礎的能力を修得するための経費
- 自立支援プログラムに基づく場合
- など
注意すべき点として、資格検定等に要する費用は1度限りの支給なので、1度目の資格検定試験に落ちた場合、2度目以降の検定料は自腹です。
また、生活保護の実施期間(自治体)が上記の費用に該当すると認めた場合、パソコンスクールやコミュニケーション力向上を目的としたセミナーも支給対象になります。
繰り返しますが、生活保護は各自治体の裁量が非常に大きく、自治体によっては対応が異なる場合もありますので、参考としてご覧になってください
更に、自立支援プログラムに基づく場合、1年に複数回の技能習得日を必要とする場合は、209,000円以内であれば支給されます。
3:技能習得費(高等学校等就学費)
技能習得費(高等学校等就学費)
- 基本額(月額):5,450円
- 教材代:正規の授業で使用する教材の購入に必要な額
- 授業料:高等学校等が所在する都道府県の条例に定める都道府県の高等学校における額以内の額
- 入学料及び入学考査料:高等学校等が所在する都道府県(市町村)の条例に定める都道府県(市町村)立の高等学校等における額以内の額
- 通学のための交通費:通学に必要な最低限度の額
- 学習支援費(月額):5,150円
技能習得費(高等学校等就学費)は、文字通り高等学校に関する費用が支給されます。
支給金額の設定は、都道府県立(もしくは市町村)の高等学校を基準にしている為、私立の高等学校は考慮されていないと言えます。
4:就職支度費
就職支度費
就職決定後にスーツや革靴、カバン等を購入する費用として支給されます。
また、初任給までの交通費が無い場合も実費分が支給対象になります。
ただし、最も経済的な経路及び方法により通勤定期券等を購入する必要があり、支給を受けた後に通勤定期券等の写しを提出しなければなりません。
ですから、1つ先の駅だと特急が止まるからという理由で、1駅先の区間の定期券を購入したりする事は認められません。
また、就職支度費と生業費を同一人物が受給する事はできません。
就職支度に関しては、各自治体で独自の補助を行っている事がありますので、ケースワーカーさんに確認をとってみても良いでしょう。
生業扶助を受けるには?
まずはケースワーカーさんに相談をしましょう。
これまで説明した通り、生業扶助は例外や特別基準の設定などが多いので、仕事や事業、高校進学に関する事以外にも、資格取得やスクール、セミナー参加の検討をしている場合は、逐一ケースワーカーさんに報告しておいた方が良いです。
そうする事で、検討していたセミナーやスクールなどの費用も技能習得費で支給される可能性があります。
判断は自治体とケースワーカーさんによります
また、生業費は申請すれば必ず支給されるものでなく、実態を調査確認されたり、客観的に必要用が認められたうえで支給されます。
ですから、自治体やケースワーカーさんの考えによって多少対応が変わるかしれませんが、事業計画書の提出やプレゼンテーションは必要だと思っておいた方が良いです。
関連記事
まとめ
生活保護受給者が仕事に就いたり事業を始める事は、生活保護の返上に関わってきますので非常に重要です。
ですから、その為の資格取得や高等学校進学についても、かなり柔軟に扶助が設定されています。
ただし、事業をするにしても、
では認められませんし、客観的に生計の維持に役立つ生業(事業)となり得ると認められなければ生業費は支給されません。
資格取得も、
では技能習得費が支給される事はありません。
まずは自身が
- 事業をしたいのか
- 会社に所属して働きたいのか
- そうする為には何が必要なのか
というように、考えをまとめてからケースワーカーさんに相談しましょう。